シネマ・ワンダーランド

アクセスカウンタ

help リーダーに追加 RSS 「奇跡の海」と「処女の泉」

  作成日時 : 2005/11/12 00:57   >>

トラックバック 9 / コメント 20

画像現在、世界の注目すべき映画作家の一人は、デンマークのラース・フォン・トリアーであろう。彼は「奇跡の海」(1996年)で、その非凡な才能を世界に提示した。その後、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(2000年)で、ミュージカルというものの概念を根本から覆した、その功績は顕著である。また、「ドッグヴィル」(03年)では、上記2作と同様、悲劇に陥る女性を巧みに描き、さらには形式的に実験的な手法を用いて観客を驚かせた。デンマークの「ドグマ」運動の主宰者であり、フランス・ヌーヴェルヴァーグに匹敵するような新しい芸術運動を引き起こしたことで、映画史に残る映画作家の一人である。

「奇跡の海」は、1970年代のスコットランドを舞台に、ヒロインのエミリー・ワトソンが工員と結婚し、その夫が工場で事故に遭い、性的不能者となる。夫はエミリーに他の男と肉体関係をもつように強請する。悩んだあげく、エミリーは夫への愛に応えるべく、売春行為を繰り返し、村中からそしりを受けることになる。信仰深いエミリーは、教会への不信感を募らせながら、売春行為がきっかけとなり、他界していく。これを悲しんだ夫らは、エミリーの亡骸を海上から葬る。すると、天空からエミリーの死を悼んでか、二つの鐘が連打される……。

「奇跡の海」は、各チャプターごとに背景画を用意し、さらに70年代に流行したエルトン・ジョンやプロコルハルムなどのロックの名曲を配する表現技法を用いており、かなり斬新である。画像この作品で想起するのは、スウェーデンの映画監督、イングマル・ベルイマンの「処女の泉」(1960年)だ。同作品は16世紀のスウェーデンの片田舎を背景に、豪農の娘がある日、教会へ行く途中、森の中で3人の浮浪者らにレイプされ、殺害されてしまう。これを知った父親は、殺害現場で悲嘆にくれ、訴えかける。「この世に神は存在するのか」と。すると、少女の死体の下から、その問いかけに応えるように、泉がこんこんと湧き出してくる……。

「奇跡の海」と「処女の泉」。この2つの作品に共通するのは、信仰とは何か、神は存在するのか、といった不変のテーマである。トリアー監督は、教会がらみではなく、エミリーの内なる神が存在しているのではないか、と主張しているように思われる。そのような意味では、ラストシーンの鐘はエミリー自身が鳴らしたのかもしれない。

一方、牧師の息子として生まれ育ったベルイマンは、「処女の泉」のなかで神の存在を否定的ながらも、肯定しているような側面が見受けられる。しかし、その後ベルイマンは「沈黙」などの作品で、神なき世界を表現する創作活動の時代へと突入していく。

[5段階評価]
 「奇跡の海」……☆☆☆☆☆  「処女の泉」……☆☆☆☆☆

画像




奇跡の海
奇跡の海 [DVD]

設定テーマ

関連テーマ 一覧

月別リンク

トラックバック(9件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
奇跡の海
『奇跡の海』 ...続きを見る
39☆SMASH
2005/11/19 23:44
★「奇跡の海」、救わない神★
「奇跡の海」(1996) デンマーク BREAKING THE WAVES  監督:ラース・フォン・トリアー 製作:ヴィベク・ウィンドレフ ピーター・オルベク・イェンセン 脚本:ラース・フォン・トリアー 撮影:ロビー・ミューラー 美術:カール・ユリウスン 音楽:レイ・ウィ... ...続きを見る
★☆カゴメのシネマ洞☆★
2005/12/02 22:51
☆トリアー監督という人☆
ラース・フォン・トリアーLars von Trier ...続きを見る
★☆カゴメのシネマ洞☆★
2005/12/02 22:55
『奇跡の海』 9P
私的オススメ度:9P ...続きを見る
OL映画でいやし生活
2006/05/14 22:21
奇跡の海/ラース・フォン・トリアー
ベスとヤンの間に確かな愛を感じるのはなぜでしょうか。愛しすぎることは人を盲目にさせるのでしょうか。理屈を越えた思いに圧倒されました。 ...続きを見る
文学な?ブログ
2006/08/04 00:41
奇跡の海
ラース・フォン・トリアー ...続きを見る
undercurrent
2007/02/21 01:04
奇跡の海
 コチラの「奇跡の海」は、またまたKaz.さんのご紹介で観てみましたぁ〜♪  「ダンサー・イン・ザ・ダーク」、「ドッグヴィル」、「マンダレイ」のラース・フォン・トリアー監督の作品で、1996年のカンヌ映画祭の審査員特別グランプリ受賞作品です。  お話としては、7... ...続きを見る
☆彡映画鑑賞日記☆彡
2007/10/23 00:07
DVD「奇跡の海」を観ました。2008年45本目
原題 : Breaking the Waves 製作年 : 1996年 製作国 : デンマーク 主演;エミリー・ワトソン (Beth) ステラン・スカルスゲールド (Jan) カトリン・カートリッジ (Dodo) ジャン・マルク・バール (Terry) エイドリアン・ローリンズ (Doctor Richardson) ...続きを見る
Aspiring Bobby-dazz...
2008/04/27 01:14
奇跡の海
1996 デンマーク 洋画 ドラマ ラブロマンス 作品のイメージ:切ない 出演:エミリー・ワトソン、ステラン・スカルスガルド、カトリン・カートリッジ、ジャン・マルクバール ...続きを見る
あず沙の映画レビュー・ノート
2009/01/31 19:56

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(20件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちわ〜★ヤフーの映画・俳優掲示板で毎度お世話になってます我愛羅(ヤフーIDはタクティクスです)です★
HP開設なさったんですねー(>_<)  早速遊びに来ましたー★
ラース・フォン・トリアーといえば、ドラマシリーズ『キングダム』にはまったことあります★
結構色使いがセピア色っぽい映像が特徴ですよね。
私もホムペもってますので(週刊少年ジャンプ系のホムペなのでジャンプ系漫画お好きでしたら)
お暇なときに遊びに来てくださいな★ http://d.hatena.ne.jp/xxxgaaraxxx/
  です。また遊びにきまーす★ 
我愛羅
2005/11/13 00:49
我愛羅さん、早速の訪問ありがとうございます。全然コメントが入らなかったので、大変感謝しています。
ところで、最近ゾンビ映画に、はまっているので我愛羅さんが主宰するヤフー映画掲示板・ジャンル別・ホラー「名作映画」に、そのうちおじゃまさせていただきたいと思っています。
このブログの二回目の記事はいつになるか全然、見通しが立っていませんが、掲載の際にはよろしく!
デイヴィッド・ギルモア(当ブログ主)
2005/11/13 02:02
ホラー掲示板の方にも是非是非きて下さいな (人´∀`*).☆.。.:*・゜
ホラー内容にもかかわらず 来る常連さんは皆さん優しくていい方ばかりで、映画の質問とかすると皆教えてくれるし、詳しい人も多いので楽しいですよ (人´∀`*).☆.。.:*・゜

一応タイトルはホラー映画なんですが、ホラー、SF、サスペンス、スリラー、ミステリー、サイコ系映画の話題全部OKってことになってるのでよろしくお願い致します (人´∀`*).☆.。.:*・゜
また、来ますね〜 (●^∇^●)
我愛羅
2005/11/13 21:44
こんばんは!
ブログ立ち上げおめでとうございます。
タクティクスさんに続いて私もおじゃましにきました〜!!
『処女の泉』は未見だけれど『奇跡の海』は見ました。
すごく悲しいストーリーだったのを覚えています。
彼女の最後も・・・つらいですね。

村人からのけものにされ、それでも愛を貫き通すカップルの話。
でもラストにはさらなる悲劇が・・・
“海”つながりで『輝きの海』という映画を思い出しました。
もし未見ならば是非見てみてください。

ちゃーはん
2005/11/13 22:39
タクティクスさん、再訪ありがとうございます。たった今、あなたのトピ「名作ホラー映画」に書き込みをしたところです。今度、前にも言いましたが、最近、はまっているゾンビ映画について書き込む予定です。
デイヴィッド・ギルモア
2005/11/14 21:58
こんばんは、ちゃーはんさん。初めて来てくれてありがとうございます。「輝きの海」は未見ですが、ネット検索したところ、英国作家、コンラッドの小説を映画化したようです。同作家の小説「闇の奥」をフランシス・F・コッポラ監督が映画化した名作「地獄の黙示録」は見たことがあります。では、では。
デイヴィッド・ギルモア
2005/11/14 22:10
ホラー掲示板来訪ありがと〜ございます(>_<)
どしどしなんでも書き込みしてくださいね(>_<)
また来ますね〜 (人´∀`*).☆.。.:*・゜
我愛羅
2005/11/15 14:12
たった今、ヤフー映画・俳優掲示板に書き込みしました。
トリアーは「奇跡の海」「ダンサー・イン・ザ・ダーク」「ドッグヴィル」の3作しか見ていないので、今度いつでもいいいから、「キングダム」の内容について教えて!
デイヴィッド・ギルモア
2005/11/16 00:22
「キングダム」はですねー
トリアーの本国デンマークで放送されて
めちゃ人気がでた連続テレビドラマです。
心霊現象が起きる巨大病院キングダムを舞台にしたミステリードラマで、
霊感のあるドルッセ婦人が(息子がその病院で働いてる)、
そこにさまよう霊と交信しながら、病院に渦巻く陰謀などを探っていく話です。ビデオでは 総集編的なシリーズが3本くらいでてますよ从゜ー゜*从 
1巻4時間以上あるながーいやつですが 昔はまりました★
最近、アメリカがリメイクでスティーブン・キングが製作した「キングダム・ホスピタル」というリメイクドラマシリーズを放映して、それも6巻までリリースされてます从゜ー゜*从 
両方見ましたが、
トリアーのは、1回では理解できなかった・・何回も見てやっと分かるような難解さがありますが、
スティーブン・キングの方はやはりハリウッド、
とっても分かりやすく1回見るだけで理解できる分かりやすいエンターテイメント要素ありの
ホラードラマに仕上がってます(>_<)
我愛羅
2005/11/17 22:53
タクティクスさん、全然コメントに気づかず、ごめんね。
でも、トリアーがホラーのTVドラマをつくっていたなんて全然、知らなかった。驚きです。
デイヴィッド・ギルモア
2005/11/20 01:57
こんにちは。
私のブログにコメントくださってホントにありがとうございました。

トリアー監督の作品は、いつも観た後にドッと疲れが押し寄せてきます。
でもなぜか新作が発表されるたびに観てしまうんですよね(笑)

こんな不条理な愛はちょっとイヤですね。

また遊びに来ます。
ではでは・・・。
マイコ
2005/11/20 12:52
マイコさん、コメントありがとうございます。
デイヴィッド・ギルモア
2005/11/21 22:34
検索で貴記事を発見!拝読させて頂きました。

「奇跡の海」の鐘は、
贖罪でも救いでも祝福でもなく、
神への敵対者を滅ぼした凱歌と感じました。
あの監督ですから、それくらいしそうです(笑)。

ということで、私の記事、TBさせてくらさい。
(ブログの趣旨にそぐわないと判断された場合には、遠慮無く削除して下さいませ)
カゴメ
2005/12/02 22:46
カゴメさん、コメントありがとうございます。
「奇跡の海」のラストの鐘をどう解釈するかっていうのは、なかなか難しいですよね。
D.ギルモア
2005/12/03 02:03
『処女の泉』は未見なので、機会があったら見てみたいですね。とても興味のある題材ですし。

あの章の間に入る音楽はエルトン・ジョンやプロコルハルムなどの曲だったんですね!ちょっと映画の雰囲気とあってなくなかったです?曲知ってるとまたイメージが違いますかねぇ。

とにかくとてもいい映画でした!
goma
2006/05/14 22:29
gomaさん、こんばんは。TB&コメントありがとうございます。

「奇跡の海」の表現技法は、かなり斬新な感じがしました。おっしゃる通り、章の間の音楽はミスマッチな感じが否めないでもないですね。ただ、デンマークの「ドグマ」という芸術運動の一つの表れである、とぼくは認識しました。ロックの名曲とともに映し出されたあの風景画はよくなかったでしょうか。まあ、人それぞれの好みなのかも知れませんが…。

でも、ヘビーだけれど、革新的なミュージカル「ダンサー・イン・ザ・ダーク」、よかったですよね。

それでは、またぜひ遊びに来てくださいね。
D.ギルモア
2006/05/14 23:13
>デンマークの「ドグマ」という芸術運動の一つの表れである

なるほど。そういう見方はありますね。風景はそうですね、よかったと思いますわ〜。

『ダンサー・イン〜』はかなりよくできてる映画だと思いましたよん。あんなに号泣した映画は他にないかもくらい見るのつらかったですけどね〜。あのミュージカルの挟み方と、その歌詞にも裏の背景を感じさせる当たりもさすがって感じで。

ではまた〜。
goma
2006/05/17 01:39
gomaさん、こんばんは。再訪ありがとう!!

「ダンサー・イン〜」は、例えば、貨物列車の中や、工場内、裁判所の中などで、突然、歌と踊りを繰り広げるシーンが素晴らしかった、と思います。米映画「シカゴ」にも何らかの影響を与えているのではないかと、考えています。

「ダンサー・イン〜」ほど、見る人にとって大きく好き嫌い、賛否両論があると思いますが、ぼくはもちろん、支持派です。やはり、トリアーという人が、他の監督に比べ非凡な才能の持ち主ではないかと考えているからです。

最近、「ダンサー」の中古ビデオを格安で購入しましたので、いつかまた当ブログで取り上げてみたいなあ、と思っています。
D.ギルモア
2006/05/17 03:37
(-ω-;)ウーン確かに最後の鐘をどう解釈するかで大きく受け止め方の変わる映画ですよね。
信仰ってもの自体にも関わってくるだろうし、
それこそ人それぞれかと思います。
でも、信仰って確かに内なるもの、個々の良心というか美徳というか、そんな感じに思ってるので、ひょっとしたらDavid Gilmourさんの考えと近いかもしれません。
miyu
2007/10/23 22:39
>みゆぽん、こんばんは。

ほんとに、ラストの「鐘」の解釈って難しいよね。

だから、例えば、エミリー・ワトソンを神の象徴と考えて、神の死に対して、夫をはじめとしたみんなが、海上葬を行うことにより、神がそのリアクションとして鐘を打ち鳴らした、っていう解釈はどうだろうか。

だって、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」でも、そのことと同様なことをトリアーは言いたかったんじゃないだろうか。
D.ギルモア
2007/10/24 01:02

コメントする help

ニックネーム
本 文