「ビデオドローム」や「ザ・フライ」「イグジステンズ」などの作品で知られるホラー映画界の鬼才、デイヴィッド・クローネンバーグ監督が2002年にメガホンをとった異色サスペンス「スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする」(仏加英、98分)。この映画は、心療刑務所を出所した男が中間施設での生活を通して、人間の記憶とは、人間の存在とはなどのテーマを追求している。物語はスパイダーと呼ばれる男デニス・クレッグ(レイフ・ファインズ)が心療刑務所から出所し、ロンドンの駅に降り立つところから始まる。保護観察さきの中間施設で、ウイルキンソン夫人に迎えられたクレッグは、少年時代の記憶をたどり寄せていく。母親(ミランダ・リチャードソン)と幼い自分(ブラッドリー・ホール)がいる部屋の中。やがて、少年は父親(ガブリエル・バーン)と、娼婦イボンヌと逢引し、母親をスコップで殺害する現場を目撃する。ショックを受けた少年は、部屋に蜘蛛の巣のように糸を張り巡らせ、それを操作してガス栓を開き、自宅にいたイボンヌを殺害するのだが……。 本作では、クレッグの回想を通じて人間の記憶とは、現実とは、アイデンティティー(自己確立)とは何かをテーマにしている。また、表現形式としてみるべきものがある。たとえば、前半でクレッグが、少年時代の現場に遭遇し、母親と少年の2人をあとからついていくシーンはいい。このようなシーンは、ウッディ・アレン監督作品「アニー・ホール」にもあった。また、ロンドンの情景描写を巧みに取り入れている。湿った空気や、古い町並み、陰鬱(いんうつ)な天気、キーワードとなるガスタンクなど。そして、どっきりとさせられるのは、後半でウイルキンソン夫人が急にイボンヌに変わるところだ。クレッグは思い余って、「あなたは誰ですか」と尋ねる。 人間の記憶についてであるが、本作でクローネンバーグは、曖昧なものとしてとらえているようだ。少年が目撃した父親が母親を殺害する場面は果たして現実だったのか、少年の妄想によってつくられたものではなかったのか。母親をイボンヌとして錯覚したのではないかなど。このように少年の妄想と現実を描くことで、クローネンバーグは記憶の不確かさや、人間存在の不安を描きたかったのではないかと思われる。来日記者会見の中で、クローネンバーグは「正確な記憶といったものはなく、あとからつくられるものである」と言っている。また、記憶とにおいとの関係についても触れている。ラスト近くのガスのにおいや、少年が母親のタンスを開けてみると母のにおいがすることなど。においがさまざまな記憶をもたらし、また新たな記憶をつくっていくようにも見られる。本作はこれまでのクローネンバーグのホラー作品とは異なり、哲学的な命題に踏み込んでいるような気がする。興行的には失敗したが、トロント国際映画祭最優秀カナダ映画賞やサンフランシスコ批評家協会助演女優賞などを受賞している。近松門左衛門の芸術理論に「虚実皮膜論」があったが、本作は虚と実の間にあるような人間存在を描いているように思える。 [5段階評価]……☆☆☆ スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする
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スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする
お気に入りクローネンバーグ監督の話題作を、まだ観ていなかった。DVD借りてきた。 ...続きを見る |
CINEMA正直れびゅ<ネタバレあり> 2008/02/18 07:13 |
「スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする」
(原題:Spider )2002年作品。精神を病んだ男が、母親の死についての記憶をたどっていくうち、意外な真実が浮かび上がっていくという怪異譚。デイヴィッド・クローネンバーグ監督作品としては「戦慄の絆」や「M・バタフライ」と同様“非・ドロドロ系”に属する映画ながら、屈折度は「イグヂステンス」などを凌ぐ。 ...続きを見る |
元・副会長のCinema Days 2008/02/19 06:43 |
スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする
SPIDER 02年 フランス/カナダ/イギリス ...続きを見る |
about cinema to shib... 2008/02/20 00:20 |
スパイダー 少年は蜘蛛にキスをする ★★★★★
タイトルバックに映し出される、様々な痕跡を持つ壁は、現実と空想、正気と狂気、現在と過去、安寧と恐怖などの境界を表す。「愛のためなら、危険も冒す。愛は進むべき道を見出す」という主題歌が流れ、この映画のテーマが、”愛とその対局にある危険なこと”であると分かる。 ...続きを見る |
マダム・クニコの映画解体新書 2008/03/08 12:30 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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>虚と実の間にあるような人間存在 |
マダム・クニコ 2008/03/08 12:29 |
>マダム・クニコさん、トラコメありがとうございます。 |
D.ギルモア 2008/03/08 23:45 |
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